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或日こういう場合に、安が停(と)めようとすると、宗右衛門はこれをも髪を攫(つか)んで拉(ひ)き倒して乱打し、「出て往(ゆ)け」と叫んだ。宗右衛門は怒(いか)って「親に手向(てむかい)をするか」といいつつ、銓を拳(こぶし)で乱打する。 こういう時に、宗右衛門が酒気を帯びていると、銓を側に引き附けて置いて、忍耐を教えるといって、戯(たわむれ)のように煙管(キセル)で頭を打つことがある。 しかしわたくしはよしや多少の困難があるにしても、書かんと欲する事だけは書いて、この稿を完(まっと)うするつもりである。邸内に棲(すま)わせてある長尾の一家(いっけ)にも、折々多少の風波(ふうは)が起る。