“ 楽天的な道楽者で、大学を8年かかって卒業した。今朝の大霜で、学校の裏庭にある樹木は大概落葉して了(しま)つたが、桜ばかりは未だ秋の名残をとゞめて居た。東の壁のところに、二十余人の寺々の住職、今年にかぎつて蓮華寺一人欠けたのも物足りないとは、流石(さすが)に土地柄も思はれてをかしかつた。殊に風采の人目を引いたのは、高柳利三郎といふ新進政事家、すでに檜舞台(ひのきぶたい)をも踏んで来た男で、今年もまた代議士の候補者に立つといふ。 ”