“ まだ覚えて居るが、彼(あ)の時の投票は、僕がそれ大食家さ。 しかし大食家と言はれる位に、彼の頃は壮健(たつしや)でしたよ。 ホラ、君の読んで下すつたといふ「現代の思潮と下層社会」--あれを書く頃なぞは、健康(たつしや)だといふ日は一日も無い位だつた。 まだ、君、垢が些少(ちつと)も落ちやしない。 『どうです、瀬川君、僕の三助もなか/\巧いものでせう--はゝゝゝゝ。僕があの師範校を出た頃には、それを考へて、随分暗い月日を送つたことも有ましたよ。純と雪子が吹雪で遭難しかけたときには自分の馬で救出に出かける、北電に黒板家の電気設営をお願いする、螢が可愛がっていたキツネが杵次の仕掛けた罠にかかってしまった時には素直に螢に謝罪する、螢と一緒にいっしょにお手玉をして遊ぶ、正吉に木の上の小屋を作ってあげるなど根は決して悪くはない。 ”